パワーリザーブ針
スプリングドライブ:72時間パワーリザーブ針



スプリングドライブと言えば
グランドセイコーの中でも高額な方で、
一生使えるか気になる人も多いと思います。


・スプリングドライブって一生使えるの?
・合計で維持費はどれくらい?


この疑問について、
・GSへのヒヤリング
・9年モノのスプリングドライブの使用経験
を元に考察してきます。




さっそく結論、

  • スプリングドライブは寿命あり
  • スタンダード3針モデルで2040年頃までは十分にメンテ可能と予想
  • その間に5回オーバーホールして維持費は計29万円と試算




ボリューム多めですが、
スプリングドライブを検討中の方には、
ぜひ見て欲しい内容です。




スプリングドライブの概要

9r65-GS透し模様
スプリングドライブ9R65ムーブメント:裏蓋には紋章の透かし柄



スプリングドライブの寿命を理解するには
仕組みやオーバーホールの必要性を
少しだけ知っておく必要があります。


スプリングドライブの仕組み

sarx035とsbgt237
左:メカニカルウォッチ 右:クオーツウォッチ


スプリングドライブの仕組みをざっくり言えば、
機械式とクオーツ式の良いとこ取りしたものです。



ゼンマイの力で発電して、
クオーツ式の制御により高精度を実現。
細かい説明は、趣旨から外れるので割愛します。

オーバーホールの必要性と頻度

9r65山脈デザイン
9R65のデザイン:地板と歯車を山脈に見立てて配置


アナログ時計だと
クオーツ式や機械式でも歯車を使っているので
メンテしないとオイル切れや劣化によって悪影響が出ます。



GSによると
スタンダードなスプリングドライブでも
200以上のパーツを使用しており、
3~4年毎のオーバーホールが望ましいとのこと。


オーバーホールの依頼先


スプリングドライブの機構は特殊で、
基本的にオーバーホールはグランドセイコーに依頼します。



一般的な機械式やクオーツ式であれば、修理店でも受け付けています。
しかし、スプリングドライブは
ICとメカニカルの構成なので
一般店で引き取ってもらえてもメーカー送りになるでしょう。



スプリングドライブを一生使うには

GSダイバーズ:スプリングドライブSBGA031



一般店で修理できない以上、
スプリングドライブを一生使うには
GSのメンテナンス体制次第といえます。
グランドセイコーのHPによると下記の通り。

  • 補修用性能部品の保有期間は10年が基準
  • 長期間の修理対応ができるように体制を整えている



これらを分かりやすく解説していきます。

補修用性能部品の保有期間は10年が基準

「保有期間は10年」ってことは
購入した日から10年経ったら修理できないの?


そうではありません。
ムーブメントが生産終了になってから
10年というのが正しい解釈です。



例えば
2020年に買った時計の同型ムーブメントが、
2025年に生産終了なら、
2035年までは修理用のパーツを保有、
という意味になります。


長期間の修理対応ができるように体制を整えている

「長期間の修理対応ができるように体制を整えています」って
具体的には?


グランドセイコーに問い合わせたところ、
「10年間の保有期間後も部品を処分することなく、修理を受け付ける」
との事です。



ただし、
パーツ在庫がなくなれば
修理が困難と回答がありました。


結局、修理対応できる期間については
GSですらはっきりしない様子。
一生使いを考えているユーザーにとって
不安に感じると思います。


GSでの修理対応期間が終了したら

搭載ムーブメントの生産終了から10年経つと、
修理可否は補修用パーツの在庫に委ねられます。


もし在庫がなければ
その時点で修理は不可能に。


でも、
パーツ交換不要な内容なら
対応してもらえる可能性は上がるでしょう。

どうしても直して使い続けたい場合

グランドセイコームーブメント
GSメカニカルモデル:9S65


ここは筆者の推測なので
あくまで参考程度と考えてください。


GSで修理不可になった場合、
どこがダメになったのか確認しておきましょう
スプリングドライブは
機械式とクオーツ式の二面性を持っています。
どちらが故障したかで対応は変わってきます。

機械式部分の修理

スプリングドライブの機械式部分は
主に、ゼンマイの巻き上げ機構と輪列。
これらのパーツなら修理店で復元できる可能性があります。


但し、純正のパーツ類は
GSで最適化されているものなので
完全修復は難しいかもしれません。


動力の伝達ロスの抑制、
調速機構との兼ね合いを加味した作りなど
いろんなハードルが想定されます。

クオーツ部分の修理

クオーツやIC部分(調速機構)の故障は
諦めるしかないと考えられます。

スプリングドライブの調速機構は
「TRI-SYNCHRO-REGULATOR(トライシンクロレギュレーター)」と
名付けられており、簡単にいうと
これら3要素を複雑に制御しています。

  • ゼンマイによる動力
  • 電磁ブレーキによる発電
  • 水晶振動子による電気信号


ICはグランドセイコーに在庫がなければ
どうにもならないでしょう。


ジャンク品でトライシンクロレギュレーターを入手して
載せ替えれば・・・
出来るかもしれませんが、
ちゃんと動作するのかは未知数です。


スプリングドライブの寿命を考察

sbga073-sbgr251
左:スプリングドライブ(SBGA073)、右:メカニカル(SBGR251)


スプリングドライブの寿命の定義

人によって考え方に差があると思いますので、
一旦、スプリングドライブの寿命を2通りに定義します。

  • 寿命その1:スペック通りの精度を維持できる年数
  • 寿命その2:日常生活で問題ない精度を維持できる年数



今回はスプリングドライブで
最もスタンダードなムーブメント「9R65」の
耐用年数を考えていきます。


寿命その1:スペック精度の耐用年数は?

トライシンクロレギュレーター
9R65:同価格帯ライバルとは一線を画した仕上げの完成度


ここでは「スペック精度の維持年数」を
「十分にメンテ可能な年数」と置き換えて考えました。



スプリングドライブの精度は
基本的に月差±15秒です(一部例外あり)。
これを維持するには
GSで定期的なオーバーホールが必要です。


十分なメンテが可能なのは
前述したように「ムーブメントの生産終了から10年」が
1つの節目となります。

9R65はいつ廃盤になるか

9R65コートドジュネーブ
コートドジュネーブ仕上げ:キレイな細かい筋目


今回モデルケースとした9R65については、
現時点で廃盤の情報はありませんが、
筆者的には
少なくとも2030年頃までは現役かなと考えています。


その理由はこの2点

  • 当分は現行の9R6系で十分(だと感じる)
  • ムーブメントの製品ライフサイクル


順番に書いていきます。

理由1.当分は現行の9R6系で十分

セイコーウオッチの元副社長 梅本氏の著書や
グランドセイコーの直近の動向を見る限り、
GSは100万円以上のクラスにも注力していく事が予想され、
スプリングドライブの開発面においては最新型9RA5の
派生機種(GMT、クロノグラフ等)を優先していくと思われます。


また、60万円前後の通常のスプリングドライブ(9R65)については、
業界トレンドであるパワーリザーブ72時間を既にクリアしている事や
独創的な機構により、ある意味ライバル不在なので
新ムーブメントの早期開発の可能性は低いと考えています。

理由2.ムーブメントの製品ライフサイクル

一般的に高級時計ムーブメントの
製品ライフサイクルは長く
短いもので10年程度で廃盤、
長いものだと50年近く現役のものもあります。


例えば、現行のグランドセイコーで
ロングセラーなのはクオーツの9F83です。
1993年発売なので、そろそろ30年。


一方で9R65は2004年リリースなので
2030年以降も現役というのは十分あり得ると思います。

スペック精度を維持できる耐用年数:結論

以上より、「スペック精度の維持年数」は

2040年頃まではメーカー修理可能でスペック精度を維持できると推測





寿命その2:日常精度の耐用年数は?

gs-sbga073
SBGA073:2012年モデル(写真は2021年4月時点の様子)


では、2040年代以降に
GSでのメンテが受けられない場合、
いつまで使えるのでしょうか。

9年モノのスプリングドライブの状況

ごく一例ですが、筆者の手元にある
9年モノのスプリングドライブをもとに考えてみます。



この時計、
オーバーホールの記録が残されておらず
いろんな事情を勘案すると
これまでノーメンテか
約5年前に一度実施している程度かと推測されます。


現状の精度は+130秒/月(本来は±15秒/月)。
ケースには打跡や傷も多数あり、
実用時計として使い込まれてきたのでしょう。

スプリングドライブの不具合

9年の使用でかなり精度は落ちていますが
機械式腕時計の精度くらいは維持し、
日常使用でも問題ありません。


ただし、
既にスプリングドライブとしての精度は失われており、
この先も日常使用できる保証はありません。


予想される不具合はこの2点

  • 基準信号とのシンクロがうまくいってない
  • 重量加速度の検知機能の不調



どちらにせよ
+130秒/月と進む側にズレているので
調速機構(=IC部分)由来の不具合かと。


ちなみに、
メカニカル面の不具合は特に感じません。
オイル切れの懸念はありますが、
ゼンマイの巻上げ、リューズ操作、パワーリザーブ表示など、
機械式部分は問題なさそうです。

日常精度の耐用年数:結論

以上より、メンテなしだと5〜10年で
日常生活に支障がない程度の狂いが生じたと言えます。

もし、2040年頃まで適切にオーバーホールして
その後はメンテ困難となれば、

日常使用が可能なのは2045〜2050年頃までが一つの目安かと。





スプリングドライブの維持費用

sbge205
スプリングドライブGMT:SBGE205



スプリングドライブを購入後、
「維持費」で後悔する人も多いので
事前にしっかりチェックしたいところです。



スプリングドライブの
オーバーホール費用は下記の通り。
高く感じますが、駆動パーツの交換費用や外装研磨を含む価格です。

  • 中3針(9R65など):57,200円税込
  • GMT(9R66など):57,200円税込
  • クロノグラフGMT(9R86など):86,900円税込



使用状況にもよりますが
筆者なら下記のようにメンテ計画を立てます。


2021年:購入
2024年:1回目OH
2029年:2回目OH
2034年:3回目OH
2039年:4回目OH
2044年:5回目OH(以降 OH不可と想定)


オーバーホールは3〜4年毎が推奨されていますが、
スプリングドライブの調速機構は非接触式ということもあり
5年毎としています。


ただし、最初の数年は
各パーツが馴染む時期で摩耗粉が出やすいので
初回は3年でOHするとします。



以上より、
スタンダード機「9R65」で計5回のOHで

維持費は合計29万円程度と試算しました。



スプリングドライブ寿命まとめ

当ブログの結論はこちら、

  • スプリングドライブは寿命あり
  • スタンダード3針モデルで2040年頃までは十分にメンテ可能と予想
  • その間に5回オーバーホールして維持費は計29万円と試算


2020年頃に購入した場合、
20〜30年程度は使えると思います。


世代を超えて長く使い続けたい人は
機械式腕時計がオススメです。
>>グランドセイコー9S65ムーブメントの評価&レビュー