9S65テンプ-ダイヤショック-ヒゲゼンマイ
グランドセイコーの機械式腕時計:9S65ムーブメント




9S65といえばGSメカニカルのスタンダードにして
クロノメーター以上の精度を誇る名機。



マニュファクチュールの真髄をコスパ良く味わえ、
高く評価されているムーブメントです。



今回はこんな内容です。

  • 9Sムーブメントの体系
  • 9S65の実精度
  • 9S65の仕上げの美しさ
  • 9S65の耐久性
  • 9S65のオーバーホール



グランドセイコーの機械式腕時計に
興味がある人や好きな人向けの
マニアックな記事になっています。



GSムーブメントの概要

グランドセイコームーブメント
SBGR251のウラ側



グランドセイコーに搭載されるムーブメントはこの3種類。

  • メカニカル(9S系)←今回解説
  • クオーツ(9F系)
  • スプリングドライブ(9R系)



この記事では、
メカニカルムーブメントの9S系を解説していきます。


セイコーの機械式ムーブメントに興味がある方はこちらの記事もどうぞ。
>>セイコームーブメント比較!7S26・7S36・4R36・6R15の違いは?


9Sムーブメントの体系

セイコースタイル インデックス



9S系は種類が色々あって
少しややこしいです。


最初は
ざっくりしたイメージから行きましょう。

  • 9S5系:元祖9Sムーブメント
  • 9S6系:現行の基幹シリーズ
  • 9S8系:現行の10振動ハイビート機
  • 9SA5:最新型の10振動ハイビート機




9S55・9S65・9S68などの違いは?

9Sムーブメントの体系



次に
具体的に分類をすると上の表のようになります。


9S65など
下1ケタが「5」のものは各シリーズの
基本モデルと覚えておきましょう。


その他はこんなイメージです。

  • 9S61など下1ケタが「1」:日付無しの中3針
  • 9S64など下1ケタが「4」:手巻き
  • 9S66など下1ケタが「6」:GMT



表の通りですが、
「パワーリザーブ表示とスモールセコンド」が欲しい場合は9S63のみ
「大型モデル」が欲しい場合は9S68のみ
となります。

型式番号:9S65-00B0とかって何?

sbgn003のインデックス
裏蓋や文字盤下に型式番号が表記:9F86-0AA0



ムーブメントの番号がわかったところで
「9S65-00B0」のような番号を
目にすることがあります。


「9S65」はムーブメント
「00B0」はケースの型式番号を示しています。


例えば
「9S65-00B0」は文字盤がシルバーとブラックの2色がありますが
ケース形状は同じなので同一型番となります。


特定のモデルを示す場合は、
製品番号が使われます。

製品番号:SBGR251など

9Sモデル一覧



製品の1つ1つに
「SBGR251」のような製品番号が与えられています。



例外はありますが、ざっくり言うと

  • メンズは「SBG」
  • レディースは「STG」



そして
4つ目のアルファベットが
各モデルの特徴を示しています。


9Sムーブメンの精度の高さ

grandseiko sbgr251



高精度なメカニカルを選ぶ指標の一つとして
クロノメーター検定があります。
厳しい規格で有名ですが、グランドセイコーの場合は
さらにハードルが高い「GS規格」を設けています。



そのGS規格の中でもグレードがあり、通常品は2A級です。
一部の特別調整品のみが3A、4A級とされています。



こう書くと2A級は一番下に感じますが
クロノメーター以上のスペックが保証されています。

GS規格とクロノメーター



表の精度は公平に評価するため、
決まった方法で「静的精度」を測定したものです。



実際に腕につけて使う時の精度は「携帯精度」と言われ、
使用時の気温差や姿勢差など
いろんな要因があって静的精度よりも精度が少し落ちます。



例えばこんな感じです。

  • 公表されている携帯精度
    • 9S65(8振動):-1〜+10秒/日
    • 9S85(10振動):-1〜+8秒/日



同じ2A級でも
振動数によって携帯精度は異なります。

9S65の精度テスト

グランドセイコー sbgr251



9S65のカタログ上の精度はこちら。

  • 9S65精度
    • 静的精度:-3〜+5秒/日
    • 携帯精度:-1〜+10秒/日


実際のところが気になります。



今回は、
愛好家の中で「プアマンズGS」と呼ばれる機種の1つで
セイコープレザージュ「SARX035」のデータも参考として載せています。
(本家GSとの精度差が気になると言う個人的な好奇心も含んでいます)

SARX035-レザーベルトグリーン
セイコープレザージュ:SARX035
(約10万円ながらGSと同じ仕上げ技術を部分的に使用)


SARX035の記事はこちらをどうぞ。
>>セイコーSARX035をマニアブログがレビュー!革ベルト交換が超おすすめ



9S65と6R15精度テスト



今回の測定方法は
6姿勢、室温での簡易的なテストで、
同型でも個体差があるので
あくまで参考値とお考えください。


結果はこちら!

  • 6R15(SARX035)
    • カタログスペック:+25〜-15秒/日
    • 測定の結果:平均+11秒/日
    • 実際の携帯精度:+15秒/日
  • 9S65(SBGR251)
    • カタログスペック:+5〜-3秒/日
    • 測定の結果:平均+5秒/日
    • 実際の携帯精度:+4秒/日



片振や振角も加味して総合的に評価すると
やはり、9S65の方が高精度かつ安定的と言えます。

SARX035-ムーブメント
6R15:SARX035のムーブメント



ただ、
6R15もメカニカルとしては十分に優秀なので
GSとの価格差が有意なものと感じづらければ
SARX035のようなプレザージュも強力な選択肢になるでしょう。



9S65の仕上げの美しさ

9S65紋章-コートドジュネーブ
ガラスには透かしの紋章・回転錘のコートドジュネーブ仕上げ



裏蓋を見たときにパッと目につくのが
ムーブメントの地板に施したコートドジュネーブ仕上げです。



9Sムーブメントに共通した仕上げで
くっきりした波模様が特徴的。
角度によって様々な光のグラデーションが楽しめます。



最新型の9SA5には
さらに地板の面取り、穴石周りの仕上げ等が徹底的に施され、
一段と美しく仕上がっています。


9S65の耐久性の高さ

機械式腕時計の主な外敵はこの3つ。

  • 耐衝撃性
  • 耐磁性
  • 防水性



これらがしっかり対策されている時計は
総合的な耐久性も高い傾向にあります。


防水性は外装の守備範囲なので
ここでは耐衝撃性と耐磁性について書きます。

9S65の耐衝撃性

7s36-テンプ
7S36のテンプの軸



機械式腕時計はパーツの集合体です。
細いパーツは衝撃に弱く、
代表例はテンプの軸(天真)です。


高級機のテンプの修理代は
高額になることが多く、
筆者のイメージでは数万〜10万円くらいと考えています。


9S系ムーブメントではこの2点の対策がとられています。

  • ダイヤショック
  • 天真の太さ




テンプの中心にある赤いルビーが見えるでしょうか。
ダイヤショックという耐震装置です。

9S65テンプ-ダイヤショック-ヒゲゼンマイ
9S65のテンプ周り



衝撃が加わると
ルビーの部分が外れてテンプの軸が折れないようになっています。
ダイヤショックは修復する必要がありますが
テンプが壊れるよりもはるかにマシです。

天真(テンプの軸)の太さにも改良が加えられ、
9S65は旧型の9S55よりも0.01mm太くなっています。
たった0.01mmですが、耐衝撃性は30%アップとのこと。

9S65の耐磁性

ケースザラツ研磨



機械式腕時計は磁気NGで、
ひげゼンマイが帯磁すると精度が狂います。


PC・スマホ・家電など
磁気だらけの日常生活に耐えるため
各メーカーでひげゼンマイの素材を工夫しています。
グランドセイコーの場合は
独自に開発した「スプロン610」という合金を使い
優れた耐磁性、耐衝撃性、温度特性を実現しています。


「スプロン610」の耐磁性は10,000A/m以上で
ハンパな耐磁時計よりも優れています
(JISの第1種耐磁時計の基準は4,800A/m)


9S65のオーバーホールについて

オーバーホール
写真はETA2824



9S65の取説によると
オーバーホールの頻度は3年〜4年に一度を推奨しています。



特に最初の3年は
パーツの磨耗粉が出やすく
確実にメンテしておきたいところ。



依頼先はこの2つで迷う人が多いでしょう。

  • メーカー(GSコンプリートサービス)
  • 時計修理店



今回、
メーカーと修理店にヒヤリングしたので
その内容も含めて詳細を書いていきます。

GSコンプリートサービス

GSに依頼した場合、
内装修理、オーバーホール、ライトポリッシュを
セットで対応してくれます。


コンプリートサービスの内容はこんな感じです。

  1. 分解
  2. 洗浄(超音波洗浄)
  3. ムーブメント組み立て&注油
  4. ライトポリッシュ
  5. 外装組み立て
  6. 検査(エアー加圧検査、水中加圧検査、凝縮検査)
  7. 最終品質検査(外観・機能確認)



GS公式YouTubeでも
コンプリートサービスが紹介されています。



この動画だけでも
各工程で熟練した職人技
先進的なマシンの数々など
メーカーの圧倒的な強みがビシビシ伝わってきます。



9S65のオーバーホールの場合、
費用は47,000円(税別, 送料別)が目安。
ちょっと高く感じますが
個人的には下記2点のメリットが優っていると考えています。

  • ムーブメント内の駆動部に不具合があった場合、部品代の追加料金なし
  • ライトポリッシュでザラツ研磨を実施



9Sメカニカルには200〜300個のパーツが使われています。
長く使えば、いずれ駆動部のパーツは交換になるでしょう。
GSコンプリートサービスの場合は
追加で部品代はかかりません(GSに確認済み)


ガラス縁上面 ザラツ研磨
(左)GSの時計 ザラツ研磨により歪みが少ない鏡面 (右)セイコー5 約1万円の時計



さらに
ライトポリッシュではザラツ研磨までする徹底ぶり。
浅い傷であれば新品のような輝きが戻ります。


コンプリートサービスの期間に懸念

完璧に見えるサービスですが
公式HPによるとパーツの保有期間が10年となっており、
メーカーだけを頼りに一生使い続けるのは難しい印象です。


GSに確認したところ
現在、パーツ在庫の保有期間を設けずに
長く対応できるように体制を整えているとの事です。


時計修理店のサービス

snk623ムーブメント



ネットでもいくつかの時計修理店がヒットします。
代表的なお店へのヒヤリング結果、
総じて言えることは、

  • メリット
    • メーカーよりも料金は安め
  • デメリット
    • GSは受付NGの所が多い
    • オーバーホールは可能でも純正パーツの入手が困難


もし
オーバーホールのみで済むようであれば
修理店を利用して費用を抑えるのもアリだと思います。


ちなみに今回調査した5店舗のうち、
GSのオーバーホールができるのはこちらのお店だけでした

>>時計修理の千年堂でオーバーホール


9S65の評価&レビュー まとめ


9S65は実用高級機として高い満足度のムーブメントです。

  • 携帯精度は-1〜+10秒/日
  • 美しいコートドジュネーブ仕上げ
  • 耐磁性、耐衝撃性など高水準



アフターサービスも内容は充実していますが
対応期間に若干の懸念が残ります。
修理店も利用しながら長く使っていきたいですね。